思いも拠らない…?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



北陸で“春一番”が吹いたそうですね。
お花見どきのような気温になったり、
天気図上の配置的には降雪が警戒されたのが、
地熱があってのこと、低気圧がさほど成長しなくて、
結果としては肩透かしの冷たい雨やみぞれ止まりだったり、
そんなこんなな二月だったりするものだから。

  ―― もしかして春は早めに来るのかなぁ

ついのこととて、そんな期待も仄かに抱いちゃうというものですが。

 「どうでしょうかね。
  今週は乱高下したおしてるみたいだし。」

  それより…ああもう、
  この定理ったらややこしいなぁ。

  あ、それはもう
  “そういうもの”って暗記するしかないですよ、シチさん。

  〜〜〜〜〜〜。

  久蔵殿も。
  その化学反応式は、塩基の構造式が面倒ですから、
  まるっと暗記なさい。
  それよか この例文、
  もちっと短い言い回しじゃダメですかね。

  …………。

  久蔵殿が言うには、
  シスター・アメリアは基本ブロークンは認めてないお人だから、
  定型をまるっと暗記なさいって。


   ………………大変そうです、女子高生。(う〜ん)




      ◇◇◇



どっかの警部補殿が仄めかしていたように、
ウチの女子高生の皆様は、
ただ今 三学期の期末考査 真っ只中であらせられ。
赤を基調とした鹿ノ子絞り風の格子柄模様と、
それへ互い違いになるように、
シャクヤクっぽい大きめの花柄とをプリントされた、
いかにも古風なお布団かぶせた おコタの縁へそれぞれで陣取り。
取りやすいように開封された
スナック菓子やらクッキーやらの袋や小箱とまぜこぜに、
教科書やノートを広げると、
てんでにお勉強に勤しんでおいでだったりする。

 「せっかくの春休みに補習は勘弁ですものね。」
 「まったくです。」
 「……。(頷、頷)」

外の大学目指してるよな、
今の今が真剣本番という受験生のお姉様がたに比べれば。
定期考査だもの、教科書からの出題なんだから、
英文や古典の翻訳や解釈だって、
授業内容をがっつり把握しておれば、
大して苦労はないはず…なんでしょうけれど。

 「期末考査よ? 何科目あると思ってるのっ!」
 「そうですよねぇ。
  体育や家庭科、選択芸術でもペーパーテストがありますし。」
 「専攻科目も…。」

そうそう、こちら様の二年生以上は、
英語のリーダーと文法という“ベーシック”以外に、
“第二外国語”をもう1教科、
選択せねばならないというオマケがあったりもする。
ラテン語かフランス語かドイツ語か、
韓国語か、もしくは中国の広東語の中から選ぶか、
ネイティブな英会話の習得を目指す
“L&L”というコースもあったり…するのだが。

 「〜〜〜〜。」
 「そうでげすよねぇ。」

天使もかくやという軽やかなくせっ毛の、
金色の髪を乗っけた細っこい首、
折れるんじゃなかろうかというほども前へと倒しつつ。
細い肩をすぼめて、ふにゃにゃんとしおれた久蔵を励ますように。
“うんうんうん”と真摯なお顔で何度も頷いた七郎次。
確かに時代はますますとグローバル化も進んでおり、
一流商社の中には、
社内では英語以外使ってはならぬ…なんてこと、
大原則としているところもあるそうですが。

 「今時はスマホにも翻訳機がついてる時代だし、
  何でそうまでして、外国の言葉を覚えにゃならんのでしょか。」

その前にもっと日本語を大切にしようよとばかり。
金髪に白い頬、青玻璃の双眸を備え、
面差しも端正ならば、肢体もすっきり伸びやか…という、
一見 白系ロシア人風の見栄えで何を怒っているのだか、と。
ここから見聞きした人からは
誤解された上で呆れられるだろう方向で、
白いこぶしを握り締めて力説する白百合さんへ、

 「…もしかしてシチさん。
  算数で十分、数学なんて先で使わないじゃないかって
  中学生時代に ぶうたれたことあるでしょう。」

ひなげしさんからのすっぱ抜きにあって、

 「……っ。」

びくくっと肩が震えた辺り、
痛いところを突かれたのは明白か。(苦笑)
上げた拳の降ろしどころに困るというのを、
うっすらとした おろおろっぷりでそのまんま演じて見せつつ、

 「………過去の話はさて置こうよ、ヘイさん。」

先の長い“将来”に向かうにあたって、
とりあえず明日の試験科目へとっとと立ち戻るところが、
白百合さんたら結構ゲンキンだったりするのだが。(苦笑)

 「そうよ、明日のことを考えましょう。」
 「そうそう。数学も漢文もさようなら。」
 「昨日の化学も おさらばさらば。」
 「一昨日の栄養学も…。」
 「当然ですっ。」×2

ちなみに、初日は日本史と家政科、生物で、
2日目が化学と英語のリーダー、保健体育。
今日 本日のは言うに及ばずで、
明日は英語の文法と現代国語と地理だそうで。
最終日の選択芸術と第2外国語までびっしりと、
1週間をほぼ丸ごと埋める勢いで、
気が重いばっかりなスケジュールに
翻弄されておいでのお嬢様がたなのであり。

 「地理は世界の産業分布でしたっけ。」
 「ええ。」
 「……。」

一年では日本の地理だったのが二年では世界地理。
地図帳を開けば あちこちに、
赤ペンで書き足したり、付箋を貼ったりした跡もあるけれど、

 「先日、キクチヨから
  “修学旅行でバリに行って来た”ってメールがあったんですが。」

覚えておいででしょうか、
草野さんチの関西の支家に籍を置く、
白百合さんの従姉妹にして、元サムライ仲間のお嬢さん。
かつての豪快な性格そのままに転生していた“彼女”だったものの、
元華族という、結構な家柄のお嬢さんでもあるがため。
本人の意向かどうかは不明ながら、
関西でも屈指のお嬢様学校に通っているらしく。

 おや、こんな時期にですか?

  体育の単位取得も兼ねてる代物らしいですよ?
  スキーと選択だったらしくって、
  彼女、泳ぐほうが得意だからってそっちを選んだんですって。

何てことなさげな会話を交わしつつ、
世界全域地図の上をさまよう三対の視線。
そう、

 「アタシ、咄嗟にバリ島の位置が判らなくって。」

 「あー判ります、それ。」
 「……。(頷、頷)」

いい年しているのに情けないでげすと、肩をすぼめるお嬢様へ、
金髪綿毛のお友達がお顔を覗き込み、

 「試験には…。」
 「ええ、あんまり出て来ませんけどね。」

そう。
これが欧州の各国の位置なんてクイズなら、
ユーロ加盟国どころか、
バルト三国だってきっちり把握出来ているのに。
カンボジアだ、タイだ、ラオスだ、ベトナムだという、
随分と入り組んだ南アジアだって把握出来てたつもりだったのに。

 「そういや アタシたち、
  海外の南国リゾートにはあんまり関心ありませんものね。」

 「……。(頷、頷)」

ネイティブな英会話だって不得手で悪いかと、
その外見でよくもまあそれを言う、
白百合・紅バラのお二人が
身を寄せ合っての意気投合しているけれど、

 「久蔵殿は、
  ホテルへ海外から来るお客さんとも親しいのでしょうに。」

ちょっと待って下さいませと、
環境的には“仲良しこよし”じゃないはずですよと
ひなげしさんが ついつい指摘しちゃったところ、

 「お主こそ。(アメリカ人なのに…)」

 「ええ、ええ、そうですよ、
  わたしったら、
  グアムとサイパンだって、何処にあるのか指差せませんよ。」

むむうと口許を突き出すところから察するに、
一応 アメリカ領ですのにねと続けたかったらしかったが。

 「グアム?」
 「サイパンって、カレドニアじゃなかったですか?」

言い返された後の二人がキョトンとしている辺り。
その方向では、どうせどうせと拗ねても甲斐がない、
相身互いな相手だったようでございまし。

 「…アタシらって、
  意外なところに弱点があったんだねぇ。」

 「弱点というか盲点というか。」

せっかくの仲良しさんたちが
そんな些細なことで喧嘩に発展しなかったのはよしとして。
自分たちでも気づかなんだほどの、
不得手なジャンルとやらをこんな格好で発見しようとは。
少々キツイ語調での言い合いになりかかっていたのが一転して、
今度はこそこそ・ひそひそという囁き合いになってるところが、
ある意味、判りやすいったらありゃしない。


 曰く、

  「勘兵衛様には」 「ゴロさんには」 「兵庫には」

   絶対絶対 絶〜〜〜〜っ対に、内緒だからね、これ。


  ………………………………………………。


『知ったとしても
  何へどう応用させられるんだ、それ』とかいう、

保護者の皆様の、困惑目一杯な言い分が聞こえて来そうな、
何とも可愛らしい、内緒の協定だったそうでございます。
そんなことより、明日のテスト頑張ってね。(笑)





    〜どさくさ・どっとはらい〜 13.02.07.


  *雪こそ降りませんでしたが、
   JRの変則“間引き”ダイヤが祟って、
   結局 受験生は大変だったそうですね。
   相変わらず自然の脅威に脆いな、都心。(偉そう…)

   札幌雪まつりが始まる一方で、
   リオのカーニバルも間近だとか。
   南半球は真夏なんだなぁ…と思う一方で、
   実は私こそ、
   グァムって何処なんだろう、
   バリ島って何処の国にあるの?…というクチだったので、
   こういうネタをひねってみました。
   実は、九州各県の配置把握も怪しいです。(おいおい)
   高三での社会科選択は“地理”だったなんて、到底言えない…。。

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